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ゼロからはじめる声優ロードマップ ~6ヶ月の基礎、2年の応用、そして10年の飛躍へ~1-3

1-3. 「基礎がなぜ重要なのか?」〜地道なトレーニングが未来を支える理由


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はじめに

前回(1-2)では、「ノートレデビュー」――つまりほとんど準備や訓練をせずに声優として華々しくデビューするケース――の魅力やリスクについて話しました。結論として、メディアには華やかな成功例が報じられることがあるものの、実際の再現性は極めて低く、長期的に活躍するには基礎力が欠かせないという点でした。[1] では、その「基礎がなぜ重要なのか?」を改めて深掘りしていくのが今回のテーマです。


基礎がなければ現場で“NGの連発”が待っている

声優の仕事は、収録ブースでマイクに向かい、台本や映像に合わせて台詞を吹き込む――というイメージが強いかもしれません。しかし、そこにはいくつものテクニカルな要求が存在します。[1] 基礎トレーニングをすっとばしていきなり現場に入ってしまうと、以下のような問題が露呈しやすいのです。


● 長セリフや速いテンポに対応できない

 ・息継ぎの位置を誤り、台詞の途中で息切れする

 ・アニメ特有の速い口調に追いつけず、言い淀みが増えてしまう


● アクセントの乱れや滑舌不良

 ・重要なキーワードのイントネーションを間違える

 ・舌が回らず単語が聞き取りにくい


● 微妙な感情表現が出せない

 ・喜怒哀楽のベタな演技はともかく、抑えめな怒りや複雑な悲しみを音声のみで伝えられない


● マイクワークがわからず音量や音質が安定しない

 ・思わず動きすぎてマイクから外れてしまい、音が途切れる

 ・逆に近づきすぎてリップノイズが増え、雑音の原因に


これらの“NG”が連続すると、ディレクターや現場スタッフからの印象が悪くなり、「次回呼ばれない」となってしまう恐れがあります。事実、収録現場は時間との勝負であり、NGを繰り返す新人に割ける余裕は限られているのが実情です。[6]


“地味な反復”が重要な理由

基礎トレーニングと言っても、その中身は地味な作業が多く、モチベーションを保つのが大変に思えるかもしれません。しかし、実力のある声優ほど、基礎的な練習をこまめに続けているものです。たとえば、以下のような反復練習が代表例として挙げられます。[2]


● 毎日15分の発声練習・滑舌練習

 ・腹式呼吸の徹底、アイウエオ発声、外郎売などの朗読[3]


● アクセント辞典を使った単語チェック

 ・方言やクセが出やすい単語をリスト化し、繰り返し正しいイントネーションを覚える[4]


● 1人2役、複数キャラの台詞読み

 ・感情や声質を切り替える訓練で演技幅を広げる


● 録音して客観視

 ・自分の声を録音・再生し、どこに濁りがあるか、抑揚が足りないかを定期的にチェック


声優業界は激しい競争ですが、このように地味な反復を続けてきた人ほど、数年後に実力の差を大きく広げていきます。[2] 一方、舞台や映像での華やかな活動歴やノートレデビュー話題のある人でも、地味な反復練習を怠ると早い段階で壁にぶつかることが多いのです。


基礎は“安定供給”を生む

なぜ基礎を大事にするか――それは、現場での「安定供給(安定したパフォーマンス)」をもたらすからです。基礎ができている人は、たとえばこんな強みを発揮します。


● オーディション突破率が高い

 ・初見の台本でも、滑舌やアクセントの乱れが少ない

 ・ディレクターの要求に対してすぐ修正できる[6]


● 収録がスムーズ

 ・NGやリテイクを最小限に抑え、時間内に録り終える

・現場のスタッフから「仕事が早い」「助かる」と好評を得る[6]


● 役の幅が広がる

 ・ベタな感情表現だけでなく、静かな怒りや複雑な心理描写、コミカルなテンションにも対応できる


● 疲れにくい身体・声を持続

 ・腹式呼吸や発声法が身についていると、長時間収録でも声が枯れにくい[3]


実力派の声優ほど、「長いアフレコでもブレない」「想定外の演技プランを即興で出せる」などの対応力を持っており、それはまさに基礎力が支えています。[8] この“安定感”こそがリピートオファー、つまり継続的な仕事につながるカギでもあるのです。


6ヶ月でどこまで基礎が身につくのか?

声優としての基礎は、実は6ヶ月~1年程度で大枠は習得可能とも言われています。[5] もちろん個人差はありますが、以下のポイントを6ヶ月の目標とするケースが多いです。


● 発声・滑舌を身体に染み込ませる

・毎日コツコツと発声練習、早口言葉


● 感情表現の型を数種類マスター

・喜怒哀楽+α(軽い怒り、悲しみ、嬉し泣きなど)を録音し判別できる程度


● 基本的なマイクワーク

・距離感、音量調整、リップノイズ対策の基礎


● 台本解釈の初歩

・キャラの目的や背景を読み、声のトーン・テンポを考える


この段階をしっかり踏んでおくと、2年目以降に“応用”や“実戦”にスムーズに移行でき、3~5年で大きく成長する下地となるわけです。逆にここを疎かにすると、「なんとなく演じられるが、いつまで経ってもNGが多い」「キャラの幅が増えない」などの壁にぶつかりやすくなります。


まとめ:基礎こそが長期キャリアを支える土台

今回(1-3)は、「基礎がいかに声優の未来を左右するか」を掘り下げました。ノートレで話題を集めるデビューがあったとしても、現場のハードルを安定的に乗り越え続けるためには、腹式呼吸からアクセントに至るまでの地道な練習が欠かせません。


ポイント1:基礎が不足するとNG連発、現場での対応力が低下する[1]

ポイント2:地味な反復練習が実力差を広げる最大要因[2]

ポイント3:安定供給のできる声優はリピートオファーが入り、長期的に活躍しやすい[8]

ポイント4:6ヶ月~1年の基礎固めが、その後の3~5年、さらには10年後の飛躍を支える[5]


次回のブログでは、この基礎練習を具体的にどう進めていくか、特に6ヶ月という短期目標をどのように設定し、どんなメニューを組むべきなのかについて詳しく見ていきます。どうぞお楽しみに!


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参考文献

[1] 本田保則『声優の教科書 ― 基礎編からプロでも役立つ実践編まで』ソニー・ミュージックソリューションズ, 2000, ISBN 978-4789715683

[2] 松涛アクターズギムナジウム〔監修〕『基礎から始める声優トレーニングブック』雷鳥社, 2004, ISBN 978-4844134237

[3] 鵜上尚史『発声と身体のレッスン[増補新版]― 魅力的な〈こえ〉と〈からだ〉を作るために』白水社, 2012, ISBN 978-4560082003

[4] NHK放送文化研究所〔編〕『NHK日本語発音アクセント新辞典』NHK出版, 2016, ISBN 978-4140113455

[5] 武田正憲『声優になりたい! 夢を叶えるトレーニングBOOK』マイナビ出版, 2015, ISBN 978-4839954482

[6] 納谷僚介『声優をプロデュース。』星海社新書, 2018, ISBN 978-4065116340

[7] 落合真司『90分でわかるアニメ・声優業界』青弓社, 2017, ISBN 978-4787274045

[8] 大塚明夫『声優魂』星海社新書, 2015, ISBN 978-4061385672

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